低コスト・広いバンドギャップ・強固な構造・発光特性等の理由から、ZnOナノワイヤーはナノデバイス設計において注目を集めている素材です。また、ZnOナノワイヤーは表面状態が支配的な電子輸送特性を持つことが指摘されています。そこで本事例では、ZnOナノワイヤーの表面構造に依存した電気伝導特性をAtomistix ToolKitを用いて解析いたしました。
ZnOナノワイヤーの入力構造は、ZnO結晶[1]を基にして作成いたしました。また、ZnOナノワイヤーの輸送方向は、ZnO結晶の[001]面に一致するように選びました。
作成方法:


ZnOナノワイヤー内には、3種類の亜鉛(Zn)・酸素(O)が存在しえます。
(Zn.4, O.4)は、ナノワイヤー内部のみに存在し、表面には存在しません。一方、(Zn.3, O.3)と(Zn.2, O.2)は表面のみに存在します。
本計算事例では様々な表面構造を持つZnOナノワイヤーをバルク系として定義してバンド構造計算を行いました。入力構造の一例を図1に記します。

図1 : 本計算で採用した入力構造の一例。(a)輸送方向から見た図。
白丸で囲まれた原子は(Zn.2, O.2)を表し、他の表面にある原子は(Zn.3, O.3)である。(b)繰返し表示。
計算に用いた主要なパラメータを表1に記します。
表1:計算条件| ソフトウェア | ATK 2008.10 |
|---|---|
| Mesh-cut off | 200Ry |
| 交換相関汎関数 | GGA-PBE |
| 基底関数 | Zn: SZP, O: SZ |
| k点サンプリング | (1, 1, 5) |
はじめに、表面構造が(Zn.3, O.3)のみからなるZnOナノワイヤーのバンド構造計算結果を説明します。採用した入力構造を図2、それぞれの入力構造におけるバンドギャップを表2に示します。表面構造が(Zn.3, O.3)のみからなる場合は、ZnOナノワイヤーのサイズに依存せず、必ず半導体になるという計算結果が得られています。

図2 : (Zn.3, O.3)のみからなるZnOナノワイヤーの入力構造。
| 入力構造 | バンドギャップ[eV] |
|---|---|
| ZnO_nw1 | 0.70 |
| ZnO_nw2 | 0.75 |
| ZnO_nw3 | 0.65 |
| ZnO_nw4 | 0.58 |
| ZnO_nw5 | 0.52 |
次に、ZnO_nw4の表面に(Zn.2, O.2)を添加することによって、表面に存在する(Zn.2, O.2)がZnOナノワイヤーの電気伝導特性にどのような影響を及ぼすかを調べました。添加された(Zn.2, O.2)のペア数とバンドギャップの関係を図3に示します。(Zn.2, O.2)添加数の増加に伴ってバンドギャップが小さくなっていき、添加された(Zn.2, O.2)のペア数が10を超えたところでバンドギャップが消失して金属になるという結果が得られています。これは、(Zn.2, O.2)の存在が不純物ドープと同様の効果をもたらすためです。図3において、添加された(Zn.2, O.2)のペア数が1の段階で急激にバンドギャップが小さくなるのは、(Zn.2, O.2)による不純物準位が生じたことを表します。そして、(Zn.2, O.2)のペア数が増えていくと不純物準位の状態密度が広がることによって更にバンドギャップが小さくなっていき、最終的にはバンドギャップがなくなって金属となります(図4)。

図3: (Zn.2, O.2)添加数とバンドギャップの関係。

図4: (Zn.2, O.2)添加による状態密度の変化。(a) (Zn.2, O.2)の添加なし。
(b)(Zn.2, O.2)のペア数が5。(c) (Zn.2, O.2)のペア数が10。
References
[1] Young-Il Kim, Katharine Page, and Ram Seshadri, Appl. Phys. Lett. 90 (2007) 101904.