Atomistix ToolKit - Semi-Empirical(ATK-SE)は拡張ヒュッケル法ベースの半経験的手法を用いた電気伝導計算を実行するためのツールであり、数千原子からなる大規模2プローブ系を取扱うことが可能です。
ここでは、1,000原子を超えるグラフェンデバイス系の計算に対して必要となる計算時間とメモリ量を調査した結果について報告いたします。
計算を行ったマシンスペックとATKバージョン、及び並列化手法を表1に示します。
表1 マシンスペック、ATKバージョン、及び並列化手法| CPU | Intel(R) Xeon(R) E5520 (2.26 GHz) |
|---|---|
| Memory | 24GB |
| OS | CentOS release 5.4 (Final) |
| ATKのバージョン | ATK-SE 10.8.0 |
| 並列化手法 | Intel MKLによる4スレッド計算 |
以下にあるように、サイズが異なる4種類のグラフェンデバイス系を対象としました。
中央領域の原子数が1008、各電極の原子数が48からなるグラフェンデバイス

中央領域の原子数が1904、各電極の原子数が64からなるグラフェンデバイス

中央領域の原子数が2864、各電極の原子数が84からなるグラフェンデバイス

中央領域の原子数が4446、各電極の原子数が104からなるグラフェンデバイス

各計算モデルに対して、0バイアスでのSCF計算、及び透過スペクトル計算を実施しました。計算パラメータの詳細を表2に示します。
表2 計算パラメータ| Mesh-cut off | 10 Hartree |
|---|---|
| 拡張ヒュッケルパラメータ | 炭素:CerdaHuckelParameters.Carbon_graphite_Basis 水素:HoffmannHuckelParameters.Hydrogen_Basis |
| k点サンプリング | SCF:(1, 1, 100) 透過係数:(1, 1) |
| 透過スペクトル | -2eV〜2eVを401点分割 |
各計算モデルに対して、SCF計算と透過スペクトル計算に要した時間、及び最大メモリ使用量を表3に示します。
モデル4の計算を1nodeで行った場合、5日程度の時間を要する結果が得られました。
| 計算モデル | SCF [h] | 透過スペクトル[h] | 最大メモリ使用量[GB] |
|---|---|---|---|
| モデル1 | 10.7 | 1.0 | 2.5 |
| モデル2 | 19.5 | 3.0 | 5.8 |
| モデル3 | 52.9 | 6.5 | 8.3 |
| モデル4 | 106.1 | 16.2 | 13.5 |
バージョン10.8では、モデル4程度の大きさの2プローブ系計算に必要となるメモリ量は、1プロセスあたり10GBを超えてしまうため、現実的にはMPICH2による並列計算は困難です。
しかし、アダプティブメッシュやMPIメモリ並列化手法の搭載が計画されており、将来的にはより少ないメモリ量で大規模系の並列計算を実行できるように改善される予定です。
1nodeを用いたATK-SEの計算によって、系の総原子数が4,500程度のグラフェンデバイスのSCF+透過スペクトル計算を約5日で実行することが可能です。〜5,000原子のグラフェンデバイスであれば、現実的な時間と計算資源で扱えることが期待されます。
なお、計算対象やパラメータの取り方、計算環境など様々な要因で計算時間は変わりますので、ここで挙げた数値はご参考程度とお考え下さい。